京大博士課程日記 第0章 学振落ちた

学振に落ちた.これが,私の博士後期課程への第一歩である.

日本学術振興会特別研究員DC1制度は,博士課程へ進学し日本の研究社会に貢献せんと意気揚々と繰り出す若者たちを支えるために設立された金銭援助制度である.

採択率30%以下,月額20万円(課税),給与所得と言っておきながら年金などは各自,研究専念義務により指定のアルバイト以外厳禁という博士課程へ向かう学生たちが研究に集中できるように心ばかりの配慮がされた素晴らしい制度であり,就職して十全な給与体系のもとで過ごす他の同期たちとの格差を思い知らしめ研究者としての謙虚さまでも啓蒙しようとしているともっぱらの評判である.

博士後期課程.学部や分野によって千変万化にその様相が大きく変わるとされるが,私の所属する電気電子工学分野においてその立場を象徴する言葉は「無益」の一言であろう.アカデミアに所属するならまだしも,一般就職において現状博士号を持つ理由は殆ど皆無であり,修士号さえあれば大抵の大企業に入社するための下地としては十二分であるからである.おまけにアカデミアに残るという高い志を持って進む場合,その先に待つのは激務かつ不安定という立場にありながら某キーエンスのような高給取りというわけでもなく,そもそも順当にキャリアを歩めるかすらわからないという,なんとまあやりがいあふれる労働環境である.そんなろくでもない環境にいる助教は文字通り寝る間も惜しんで研究・予算申請・そのた様々な雑務に忙殺され新任の頃の輝きあふれる瞳はもはや見る影もなく泥濘が如く淀み切り,さらに私の担当教員たる准教授は常日頃から転職に思いを馳せ(なんなら面接まで受けていた)飲み会とマッチングアプリが生きがいなどという親に紹介すれば不安を掻き立てること間違いなしという惨状である.その姿をみながら研究生活を送った結果,アカデミアに進もうなどと言う気はかけらも育まれることなく今に至った.ありがとう,Dr. マッチングアプリ

上記のような背景知識が前提であるため,周囲の面々へ博士後期課程へ進む,と宣言した暁には珍獣を見るような目と配慮あふれる苦笑を多々浴びせられた.うむ,君たちは賢明で正しいとも.かかってこいやあんぽんどもが.

一般人からの評価も散々である.今年の夏まで続けていた受付事務のバイトで,常勤のおばさんに「まだ大学残るなんて,他の人は就職して頑張ってるのにだめじゃない(意訳)」と流暢な京都弁で言われたことを今でも思い出す.その日はいつもより心なしかキーボードを強く叩いた.博士課程が遊びだなんて言うやつは無知蒙昧であることこの上ない.ことこの大学・分野に関しては,就職と博士号取得どちらが楽かといえば間違いなく就職であると私は断言しよう.

さて,ここまで電電博士課程をボロカスに言っておいてなんで進学するのかという話だろう.理由は以下の3つに集約される.

1,博士号取得に足りそうな研究の目算が立ったから

  計画性のない進学は地獄への入り口に繋がっている.

2,学内奨学金とリサーチ・アシスタントの給与で生きれそうだったから

  借金してまで博士課程という過酷に飛び込んだら卒業時には胃の風通しが良くなっていることだろう.周りが就職しそれなりの給与をもらっていくなか数年間学部時代と何もかわらない生活を送らねばならないことに目をつぶれば,自立できるだけ満足.

3,博士号取得後のキャリアパスが見えていたから・所属分野における社会人博士の価値が欠片もなさそうだったから

  内定をもらった会社が博士号持ちを相当優遇しててこれは勝てると思った.

以上.それぞれについて懇切丁寧に言い訳じみた解説を挟んでも良いが,あまりにも女々しいため簡潔に述べた.上記を読んで異論反論その他社会人自慢をしたい人がいれば,金輪際半径4メートル以内に近寄らないでほしい.辛くなる.いや,やっぱかかってこいや.私は負けない.私は強い子.

そもそもなんでこんなこと書いたかといえば,いろんなやつに合って来年度の話をするたびにおんなじようなことばっか言われるからである.この記事に書いてある内容について二度と質問しないでほしい.何度も聞かれると私も自問自答しだしてせっかくだまくらかしてる精神衛生が悪化するのだ.わかったか.黙って応援するのも優しさなんだよ?

というわけで,今後数年にわたり私は博士課程日記をつける予定である.大した内容がなくともつける.昔読んだなにかの記事ではうつ病抑制には日記が一番だと聞いた.すなわちこのブログは今後数年間に渡る私のスタビライザーでありトランキライザーなのである.まあ大抵の悩みは酒のんで山登ってどっか遠くへ旅行に行けば解決することを知っているので,本当のトランキライザーはそれらにかかる資金なのだが.金くれ.金.来年度からの目標は,社会人に飯をたかりに行くことである.

以上,元気で健気な23歳学生は今日も頑張っています.

 

今日のハイライト

同期「博士用の奨学金の連絡きてるな.まあお前は無理だけど」

自分「は?」

フェローシップに登録している人は受給できない,と言いたかったらしい)